Research Results 研究成果
宿主の腸管は常に多種多様な感染微生物にさらされており、宿主は巧妙に制御された免疫機構を発達させることで、腸内細菌叢の恒常性を保っています。九州大学大学院理学研究院の関原早苗テクニカルスタッフ、川畑俊一郎主幹教授、および高等研究院の柴田俊生助教らの研究グループは、次世代シークエンサーによりショウジョウバエの腸内細菌の遺伝子解析を行い、野生型とトランスグルタミナーゼ(※1)遺伝子をノックダウンしたハエでは腸内細菌叢が大きく異なっていることを見出しました。また、腸管から単離した4種の細菌株(SK1~SK4)の抗菌ペプチドと活性酸素に対する耐性を比較したところ、常在菌が腸管内の環境に順応すると、試験管での培養した際の菌とは異なる性質を示すことが推定されました。さらに、無菌バエにSK1とSK4を1:1の比率で感染させると菌を単独で感染させたハエよりも短命になることが判明しました。今回の研究により、単離した細菌を無菌バエに摂食させることで、腸内環境における細菌間、あるいは細菌と宿主間の相互作用研究に利用できることが判明しました。ハエだけでなく、ほ乳類やヒトに共生している腸内細菌叢の研究にも応用できる実験系であり、今後、善玉菌や悪玉菌の性質を明らかにすることで、腸内フローラのバランスを変化させヒトの健康改善に寄与することが期待されます。
本研究成果は、米国の国際学術誌『The Journal of Biological Chemistry』のオンライン速報版で2016年10月19日(水)に掲載されました。近日中に確定版が掲載される予定です。
羽化後半日(左)と10日後(右)のハエ腸管の細菌叢の変化
私は研究成果をアナロジーで説明するのは好みませんが、宿主の腸管に定着している常在菌は、チョモランマ最終キャンプ地で生死をかける登山家のように、培養フラスコで増殖している常在菌は、高級ホテルのスイートルームでシャンパンを飲んでいる金持ちのように、振る舞っているのかもしれません。単離培養したある菌株の精査の結果をもって、その菌株の腸管での性質と見なさないよう自戒させられた研究でした。